大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和35年(ネ)215号 判決

控訴人(原告) 中山秀太郎

被控訴人(被告) 徳島県知事

被控訴補助参加人 高橋治郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人、被控訴人間に生じた分、参加によつて生じた分とも、控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人が昭和三一年四月一〇日付徳島県指令農開発第一八八八号をもつて、別紙目録記載の農地について農地法第二〇条第一項の規定によりなした農地賃貸借解除許可処分はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人及び被控訴補助参加代理人はいずれも主文第一項同旨並びに「控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、控訴人において「個々のかしが軽度であつても、これらが累積けん連すれば一個の重大なかしとなるものである。本付許可指令書に全く理由が記載されていなかつたこと、法律にない農地法第二〇条第一項第一号により本件許可処分をしたこと、加茂農業委員会が小作人である控訴人に弁明の機会を与えず、被控訴補助参加人(以下参加人と略称する。)申請を承認する決議をしたことのかしは累積けん連し、本件許可処分を取消すべき重大なかしとなつているものである。又原判決は弁明書(乙第八号証の二)中の農地法第二〇条第一項第一号に該当するとの記載は、同条第二項第一号の誤記であると判断したが、このような事実は当事者いずれの側からも主張されていないのであるから、民事訴訟法第一八六条違背の違法がある。」と述べ……(証拠省略)……たほか、いずれも原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

理由

当裁判所も本件許可処分は適法であり、控訴人の本訴請求は棄却すべきであると判断する。その理由は左記に付加するほか原判決理由(たゞし原判決第六丁第一六行目より第七丁第一五行目までの部分を除く。)記載のとおりであるからここにこれを引用する。

控訴人は本件許可指令書には全く理由が記載されていないから本件許可処分は違法であると主張する。成程成立に争のない甲第一号証によると右許可指令書には農地法第二〇条の規定により許可する旨記載があるだけで、許可の具体的理由の記載がないことが認められる。しかし農地法には同法第二〇条の許可処分の告知に理由を付すことを命じている規定はない。又これを実質的に考えても不許可処分ならとも角、許可処分の告知に理由を付す必要性はない。もち論許可申請人以外に利害関係人が存在することがあるし、これらの者は許可処分に対し訴願の提起ができる(農地法第八五条第一項第一号)が、処分の名宛人でない利害関係人のために常に理由を記載しなければならないというのも首肯できないし、又訴願提起に理由不記載が支障となるとは考えられない。要するに理由の記載は許可処分の有効要件ではないと解されるから、控訴人の主張は理由がない。

成立に争のない乙第八号証の二、三、原審証人中瀬啓二の証言によると、参加人の賃貸借契約解除許可申請の理由は、賃借人である控訴人が本件土地の昭和二一年度分以降の賃料を支払わないというのであり、被控訴人は、控訴人が加茂農業委員会より賃料を支払うよう戒告を受け、しかも支払能力を有しながら、昭和二二年以来本件土地の賃料を滞納している事実を認め、右事実は農地法第二〇条第二項第一号、第四号に該当すると判断し、本件許可処分をなしたものであることが認められる。右認定に反する証拠はない。控訴人は、控訴人の訴願に対する被控訴人の弁明書(乙第八号証の二)に右滞納事実は農地法第二〇条第一項第一号に該当する旨の記載があることをとらえ、同法には該当規定はないから本件許可処分は法令の適用を誤つた違法な行政処分であると主張するが、右法条は同法第二〇条第二項第一号の誤記であることは同書上の前記認定事実と対比して極めて明らかであるから、右主張は採用できない。なお被控訴人は誤記の事実を主張していないが、同法条第二項第一号、第四号の該当事実ありとして本件許可処分をした旨主張しているから、右誤記を認定しても別段民事訴訟法第一八六条に違背するものではない。

控訴人は個々のかしが軽度であつても、これらが累積けん連すれば一個の重大なかしとなる、(イ)本件許可指令書に全く理由が記載されていなかつたこと、(ロ)法律にない農地法第二〇条第一項第一号により本件許可処分をしたこと、(ハ)加茂農業委員会が小作人である控訴人に弁明の機会を与えず参加人申請を承認する決議をしたことのかしは累積けん連することにより、本件許可処分を取消すべき重大なかしとなつている、と主張する。しかし(イ)(ハ)の事実はいずれも本件許可処分のかしとはいえないのであるし、(ロ)はそのような事実はなかつたのであるから、所論はすでにその前提を欠き失当であるといわなければならない。

控訴人が当審において新に提出し、援用した書証、人証によるも原審の事実認定を左右するに足らない。

そうだとすると本件控訴は理由がないから、民事訴訟第三八四条、第九五条、第八九条、第九四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 横江文幹 安芸修 野田栄一)

(別紙目録省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例